呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
しかし部屋からは物音一つしない。
シンシアは首を傾げてもう一度声を掛けようとする。息をたっぷり吸い込んで口を開きかける。と、突然嫌な気配を感じて身の毛がよだった。
意識を集中させてその気配がどこから来ているのか探ってみると、ロッテの部屋から伝わってくる。初めて感じる不穏な気配は魔物の瘴気に似ているが、それとはまた少し違っていた。
(この気配は一体何? 瘴気のようで瘴気じゃない。そもそもこれは魔物のものなの?)
必死にその気配を探ると、それは微かに拡大したり収縮したりしながら蠢いている。魔物の気配や瘴気などは聖職者や魔法使いなら容易に感じ取ることはできるが、今回のように微細な気配は神官クラス以上か上級魔法使いでなければ感じ取れない。
意思疎通ができないロッテは魔法が使えない状態にある。当然気配を感じ取ることはできないはずだ。その上で、もしも部屋に魔物が潜んでいるとなれば弱り目に祟り目だ。
(これが魔物の瘴気ならロッテが危ない)
一刻も早く彼女に逃げるよう伝えないといけない。
……でも、どうやって? ロッテはもう動物の言葉が分からないのに。
シンシアは臍を噛んだ。
名案が浮かべば良いのだがこれといって思いつかない。猫になって特に不自由はしていなかったが、言葉が通じないことがここまでもどかしいのだと初めて知った。