呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 悶々としていると、地面にいた小鳥が飛んできて隣の小枝に留まった。
「チッ!」
 首を何度も左右に傾げながら力強く鳴いている。

 何を迷ってぐずぐずしているんだ、と急かしているような気がした。


(そうよ。言葉が通じなくたって、私とこの子みたいに心が通じ合えるかもしれない)
 高い木の上に登っているところを見ればロッテは慌てて宿舎から出てくるかもしれない。それができれば彼女の身の安全は確保できる。

 やってみないと分からないのに最初から諦めてどうする。
 シンシアは自身を叱りつけると、肺を広げるように大きく息を吸い込んだ。今度はさらに声を張り上げてロッテを呼ぶ。

『ロッテ! いるなら出てきて!!』

 部屋の中から反応はない。それでもシンシアは根気強く呼びかける。繰り返しているうちにいよいよ声が掠れて咳き込む。

(言葉が通じなくても私が鳴いてるのは分かるはずよ。反応がないのはどうして?)

 訝しんだシンシアはさらに枝の先端へと進み、若草色の瞳を細めて窓と窓枠の間を覗き込んだ。室内は至ってシンプルで、右側に机と椅子、左側にベッドとクローゼットと小さな本棚がある。そこにロッテの姿はなかった。


 一体どこに消えたんだろう。

 困惑していると部屋の入り口脇にある扉が開いた。中から清潔なお仕着せに着替え終えたロッテが出て来た。
 汚水を浴びて汚れてしまったのでお風呂に入っていたようだ。

 トレードマークであるポニーテールは下ろしていて髪は半乾き。頬は少し赤く染まっているがどんよりとした印象だ。

 ロッテはふらふらとした足取りでベッドに腰を下ろした。瞳から大粒の涙が溢れ、お仕着せが濡れることも気にせずに俯く。
 やがて、胸の奥にしまっていた真情を吐露し始めた。

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