呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第3話
『今だ!』
シンシアは素早くティルナ語で呪文を詠唱し始めた。
言葉を紡ぎ始めると虹色の光の粒が現れ、それは瘴気を纏った茶色い瓶も小鳥がくわえる丸薬もそしてロッテすらも、全てを包み込んでいく。
何が起こったのか分からないロッテは恐怖で悲鳴を上げたが、すぐに意識を失ってガクンと膝からその場にくずれおちてしまった。
全ての詠唱を終えると光の粒はまるで生きているように渦巻き状に動き、神官が身につける組紐文様の陣を描くと空気中に溶け込むようにして消えていく――。
辺りは鳥のさえずりやそよ風に揺れる葉音だけが響いていた。
立っている位置からはかろうじて倒れているロッテの顔が見える。体内の瘴気が消えたことで顔色が幾分か良くなっていた。
シンシアはほっとして小さく息を吐いた。
『浄化はこれで完了したけど。……あの薬、どうして瘴気が含まれていたの?』
通常瘴気があるのはネメトンか瘴気を持つ一部の上級の魔物だけだ。その場合は気体なので薬の調合で使用することは不可能。とはいっても人間が瘴気を扱える方法は一つある。
(魔物の核――魔瘴核は瘴気の塊だから、核を粉末にしてしまえば可能だわ)
魔瘴核は赤色の鉱物石のような見た目で内部に瘴気が含まれている。
魔瘴核の瘴気は各内部に含まれ、気体ではないので割って砕いたものを口にしない限りは安全だ。
瘴気を含む魔瘴核だが、それを取り除くことで貴重な良薬となる。故に平生は帝国が魔瘴核を回収し、中央教会の元で浄化され厳重に管理される。浄化された魔物の核は青色に変化して清浄核と呼ばれ、そこで漸く薬の材料となる。