呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
『ロッテ!』
こちらに気づいたロッテはハング窓に駆け寄ると、下窓を全開にして身を乗り出した。
「ユフェ様、木の上は危険だからすぐに降りて!」
お礼を言われるのかと思ったが予想は大きく外れて心配されてしまった。
シンシアが立っている枝は宿舎二階と同じ高さにある。
万が一落ちれば骨折は免れないだろう。
「早く幹の方へ戻って。私はランドゴルの魔法が使えても主流魔法は使えないの!」
『え、何? なんて言ったの?』
強い風が吹き始め、ロッテの最後の言葉は掻き消されてしまう。
シンシアが聞き取ろうともう一歩踏み出すとパキリ、と枝が音を立てた。
あっと声を出すと同時に枝は折れ、シンシアは地面へ真っ逆さまに落ちていく。
「ユフェ様!!」
ロッテの悲鳴に近い叫び声が頭上から響く。この速度で精霊魔法はまず間に合わない。
精霊魔法の欠点はティルナ語の発音が難しいことと、主流魔法のように詠唱を省くことができないことだ。そして精霊魔法が使えない理由がもう一つある。
(普通の猫は魔法なんて使えないからロッテに魔法を使っているところを見られたら困る。それなら怪我が最小限に済むように手を打つしかないわ)
シンシアは受け身の形になるよう体勢を整えて衝撃に備える。
できれば軽傷で済みますように。心の中で祈っていると落下速度が急激に緩んだ。