呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
(ど、どうなってるの?)
ロッテが助けてくれたのだろうか。頭を動かして宿舎二階に視線を向けてみるも姿はない。開いた窓からはためくカーテンが見えるだけだ。
それでは一体誰が?
地面に足が着き、こてんと首を傾げていると背後から足音が聞こえてきた。振り返ると同時に誰かに優しく抱き上げられ、目前に真っ黒の上衣が現れた。この宮殿で黒を纏う人物はあの人しか見たことがない。
顔を上げれば、心配な面持ちのイザークの顔がある。彼はためつすがめつ時間を掛けてシンシアに怪我がないか確認する。
「ユフェ、どこも痛いところはないか?」
「ミャウ」
大丈夫だと鳴けばいつも以上に強く抱きしめられる。彼の温もりがじんわりと身体に伝わってきて、今更ながら恐怖で全身が小刻みに震える。
(タイミングよく助けてもらえて良かった。覚悟はできていたけどやっぱり怖かった)
温もりをもっと感じたくて顔を胸板に押しつければ、大きな手が背中を撫でてくれる。何度も撫でられているうちに徐々に恐怖心は消えて、身体の力も抜けていった。
「ユフェ様っ!!」
宿舎から急いで出てきたロッテは顔が真っ青だった。が、イザークを見るなりさらに顔を青くさせ、ごくりと生唾を飲み込む。
ロッテは深々と一礼した。
「イザーク皇帝陛下に拝謁いたします。ユフェ様をお救いくださりありがとうございます」
「ランドゴル家の者ならば、猫の習性など熟知しているはずだが。どうしてこんなことになった?」
怒気を含む声が響き、シンシアでさえも肝を冷やした。殺気立ったオーラを直接肌で感じて息をするのもままならない。
「そ、それは……」
「ついてこい。詳しい話は執務室でする」
「……かしこまりました」
顔を上げるロッテは恐怖の色を滲ませながら、イザークに付き従った。