呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

第4話



 執務室に連れてこられると程なくして書類を抱えたキーリが姿を現した。
「おや、一度休憩すると仰って喜色満面でユフェ様の元へ向かわれたはずなのに。何か問題でもありましたか?」

 執務室は本来であれば皇帝とその側近や関係者以外、立ち入り禁止だ。それにも拘らずただの猫と世話役の侍女がこの場にいる。
 これは何かあったのだろう、とキーリは察しているようだった。

 イザークはシンシアを抱いたまま自身の椅子に腰を下ろして長い脚を組む。


「――ロッテ、さっきは何があったのか包み隠さず話せ」
 気に入らない人間を目だけで瞬殺できそうな厳めしい表情で、ロッテを睨めつけている。
 シンシアは宮殿に連れてこられた当初よりイザークに対する畏怖の念は抱かなくなったと自負していた。ところがそれはただの勘違いだったらしい。

 今は心臓が縮み上がるほどの恐怖で支配されている。
 ロッテは小さな悲鳴を上げるとすぐに深々と頭を下げる。その体勢のまま、彼女はことの次第を話した。

「――本当に申し訳ございません。陛下の大切な猫を危険な目に遭わせてしまいました」
 謝罪の言葉を口にするロッテに対してイザークは終始無言のままだ。沈黙と張り詰めた空気だけがその場を支配していた。


 シンシアが落ち着かない様子で二人を交互に見ているとやがて、イザークが沈黙を破った。

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