呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
(いつも一声鳴けば話しかけてくれるのに。どうしてイザーク様は応えてくれないの?)
聞いているか確認を取るために再度話しかける。尚も反応を見せないイザークにとうとうムキになった。
『もうっ! イザーク様の人でなし!! ロッテを傷つけたら私が許さないんだから!!』
「…………俺は人でなしか?」
『ええ、そうです! 人でなしです!! ロッテが意思疎通できなくなったことやその苦しみを知らないまま勝手に処罰しようとしてるあなたは人でな……うん?』
途中まで捲し立てるように喋っていたが二、三瞬きをする。
(今、イザーク様は正確に私の言葉を聞き返さなかった?)
室内は一瞬沈黙が流れ、シンシアは背中に嫌な汗をかきはじめる。
これは一体どういう状況だろう?
混乱しているとロッテが恐る恐るといった様子で小さく手を上げて呟いた。
「あの、ユフェ様は妖精猫だったんですね」
「妖精猫? なんだそれは?」
聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべたシンシアの代わりに、イザークが尋ねる。
ロッテは自分が話しても良いものか躊躇ったが、訥々と説明を始めた。
「妖精猫は常若の国の住人で、稀にこちらに訪れると言われています。一見、普通の猫ですが違いは人の言葉を話せることです。本性を現すのは稀だとランドゴルに代々伝わる史書に記されていました」
シンシアはロッテの説明を聞いて、どういう状況に直面しているのか漸く理解した。
呪いで猫の言葉しか話せなかったのに、どうやら人間の言葉が話せるようになっているらしい。