呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第6話
太陽が沈み、雲一つない紫色の空には星たちが瞬いている。
宮殿では屋内外問わず主流魔法によって灯りがぽつりぽつりと点り始めていた。地上でも夜空のように美しい光が現れる様は幻想的だ。
その様子をぼうっと眺めながら、シンシアは窓枠に座り込んで尻尾を揺らしていた。
執務室での話が終わるとロッテは宿舎へと帰っていき、シンシアはキーリによって部屋へと戻された。それ以降ずっとある疑問が頭を占めている。
『私、どうして急に人間の言葉が話せるようになったんだろう……』
シンシアが持つ精霊魔法は守護と治癒、浄化の三つで、どれも呪いには干渉できない。
今にも消滅しそうになっていた上級の魔物から受けた呪いだったので中途半端な呪いが掛かってしまったのだろうか。
いくら仮説を立ててもしっくりとくる答えは見つからない。
諦めたシンシアは思考を一旦脇に置くと、今日の出来事を振り返ることにした。
ロッテの虐めの現場を目撃したところから始まって瘴気を帯びた薬の浄化、そしてイザークに危ないところを救ってもらったことなど順番に思い出していく。
執務室へ連行された時はどうなることかと肝を冷やしたが丸く収まって本当に良かった。
ふと、脳裏に執務室でのイザークの姿が浮かんだ。相変わらずの顔面凶器だが執務室から退室するロッテに向ける眼差しは穏やかだった。
(……イザーク様、本当は怖い人じゃないのかもしれない。だって噂ほど誰彼構わず処刑する人じゃなかった。欺瞞罪からロッテが逃れられるように最初から話を聞いていたってことにしてくださったし)
イザークと過ごしてみて薄々気づいていたことがある。
それは彼が臣下や貴族たちから『雷帝』と恐れられているほど血も涙もない極悪非道ではないということだ。