恋愛境界線
「そういえば、蓮井さんのリテイクの件、君が手を貸すことになったんだって?」
「えっ、どうしてもう知ってるんですか?」
それはつい昨日のことで、私が蓮井さんに頼まれたことは純ちゃんにしか話していない。
リテイクのチャンスを電話で訊ねた時は、まだ蓮井さんに頼まれる前のことだったし。
「君のことだから、勢いで安請け合いしたのだろうけど、きちんとその役目を勤め上げられるんだろうね?」
「……判りません。確かに返事をしたのは勢いでしたけど、でも自分に出来る限りのことはしたいと思ってます」
「そう。それなら良いけど」
これで話は終わりとばかりに、若宮課長はコーヒーを飲み干して新聞の社会面を開いた。
ただ返却するだけのことだったのに、勝手に余計なことまで請け負って――くらいの小言は覚悟していたのに。
「課長、私が勝手に引き受けたこと、怒ってないんですか?」
茶碗を持ったまま、そっと若宮課長の顔色を窺ってみる。