恋愛境界線
「で、調子はどう?若宮課長のゴーサインはもらえそう?」
「全ッ然、ですよー。昨日、三回目の没をもらったばかりです……」
新ブランド《クレアトゥール》は、F1層と呼ばれる、20~34歳の女性がターゲットだ。
だから、私と蓮井さんは、“大人可愛い”をコンセプトにデザインを考えたのだけれど
「こんなデコラティブなデザインが、F1層の消費者に受け入れられるとでも?」
鞭の様に鋭い視線と、鞭の様に厳しい口調で、いともあっさりと没にされてしまった。鞭ばかりで飴は一向に差し出してこない。飴は持ち合わせていない可能性が高いけど。
支倉さんに「見せてもらえる?」と言われ、ファイルの間に挟んでおいたそのデザイン画を見せる。
「うーん、確かにこれじゃあ……ちょっと可愛すぎるかなぁ」
「可愛すぎる……?」
「パクトケースって、メイクを直す時に人目に触れるじゃない?」
女性って無意識に他人のそういう持ち物に目が行くし、と言われれば、自分にも覚えのある行動に、確かにと頷いてしまう。