恋愛境界線

「また次の機会にでも」と謝ってくれた支倉さんと一緒に会議室を出る。


「そう言えば、支倉さんがつけてるそのルージュ、素敵な色ですね」


いつもとは違って少しだけ濃い、ピンクとオレンジの中間の様な絶妙な色合いをした支倉さんの唇に自然と目が留まる。


濃いとはいっても、チークが抑え目でメイクのバランスが取れている為、そこだけ浮いているということもない。


「有難う。実はこれ、今度発売される《ルフレ》の新色なの。他でも前評判が良いみたいで嬉しくなっちゃった」


《ルフレ》も自社ブランドの一つで、フランス語で《光沢》や《反射》を意味する。


その言葉通り、それは支倉さんの唇の上で綺麗な光沢を放っていて、思わず自分も欲しくなってしまう。


発色が良いだけでなく、自分に似合う色を判っていて、尚且つ、メイクの仕方が上手いから、そのコスメが余計素敵に見えるのだろうけど。


「クレアトゥールも楽しみなんだ。どんなコスメが出来上がるのか」


そう話す支倉さんからは、本当にこの仕事が好きだということが伝わってきて、私も若宮課長に認めてもらう為だけじゃなく、手に取った人に喜んでもらう為に頑張りたいと、初めて思った。


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