恋愛境界線
ガラスの様な質感。なめらかなフォルム。表面にはビジューやラインストーンの類は一切なく洗練されたシンプルなデザイン。
だけど、角度を変えるとそこには幾何学模様が浮き彫りになって、プリズムの様に表面が七色にきらきらと輝く。
まるで光を集めたかの様な美しいパクトケースは、年齢問わず未だに根強い人気がある。
その証拠として、普通は新しいデザインのパクトケースが発売になるとそれ以前の物は廃盤になる中、これは新しいデザインと並行して未だに販売され続けているという、異例中の異例とも呼べる扱いを受けている。
「すごく女性的なデザインなのに、これを男性の蓮井さんがデザインしたなんて、本当に凄いですよね……」
「ああ。でもそれは、奥さまの協力も大きかったと思うよ」
「奥さん?えっ、蓮井さんって、結婚してるんですか?」
指輪をしていなかったからという理由だけでなく、どこかくたびれた様子から、勝手に独身だと思い込んでいた。
「奥さまはジュエリーデザイナーをされているんだが、去年の暮れ辺りに離婚されたと、耳にした記憶がある」
「じゃあ、そのショックで蓮井さんもスランプに陥っちゃったんですね、きっと……」