恋愛境界線

そんなの、また磨けば済む話なのに……と思いながら、すぐ側の資料に手を伸ばす。


お酒は飲んでしまったものの、若宮課長の嫌味で眠気が飛んだ分、頭はクリアになった。


気を取り直してもう少しだけ頑張ってから寝ようと決め、隣に立っていた課長を見上げる。


「間食はしないで頑張りますので、課長はどうぞ寝て下さい」


「何だそれは、自分より先に寝ようとしている私に対する皮肉か」


「どこが皮肉なんですか?純粋に『お先にどうぞ』『おやすみなさい』っていう意味です」


若宮課長の生活習慣は、起床も早ければ就寝も早く、基本的に規則正しい。


6時には起きてシャワーを浴び、ゆったりと朝食を摂り、その日のニュースや株価に目を通す。


出勤の一時間前に起きて慌ただしく準備をする私とは正反対で、夜も22時には寝ている。


初めの頃は修業僧かお年寄りみたいだと、その余りの規則正しさに唖然としてしまった。


そして現在、時刻は22時を回っていて、だから『どうぞ寝て下さい』って言ったのに。


< 115 / 621 >

この作品をシェア

pagetop