恋愛境界線
「どんな時間だろうと、美味しい物を食べる時に罪悪感は抱かない主義なんです」
笑いながらそう答えると、課長は呆れた声で「幸せな人間だな」と零した。
そして、若宮課長は自分は食べはしなくとも、私に付き合ってくれるつもりなのか、私の正面の椅子を引いた。
「ところで、さっきの何者だ、で思い出したんだが、本当に君は何者なんだ?」
さっきから、何者何者って、人を曲者みたいに……。
「何者って、どういう意味ですか?見ての通り、ただの一般人ですけど?」
「そういうことじゃない。ずっと気になっていたんだが、君は企画部にくる前は経理に居たのだろう?」
私は、今年で入社三年目だけれど、企画部に異動になってからの在籍日数は、実はまだ一年半程度。
「それが何か……?」
一体何が疑問なのだろうかと、まだ立ったままで私を見下ろしている若宮課長を盗み見る。
「以前、君の経歴を見させてもらったんだが、これといった経験もスキルもない――つまり、これといった実績がないわけだ」
なのに、よりにもよってなぜ企画部に移動出来たのか不思議でならない、と考え込む様に顎に手を当てた。