恋愛境界線

「もう!課長が居ると気が散るので、さっさと寝ちゃって下さい!」


スカッシュのボールみたいに即座に言葉を跳ね返してくる若宮課長を自室へ追いやろうと、背中をぐいぐい押す。


「判ったから、君は食べた物の後片付けを忘れない様に」


うちの母親より煩いというか、渚を彷彿とさせて細やかさだ……。


「判りました」と答えると、首だけこっちを振り向いた状態の若宮課長が「あぁ、それから」と続ける。


「まだ何か!?」


「社会人になったのならば、体調管理も仕事の内だよ」


それは、『寝不足で仕事中に少しでも居眠りしたら、私は断じて許さないからね』という遠回しの脅しか何かですか?


でもそれなら、こんな持って回った言い方じゃなくて、はっきりとそう言うはず。


もしかして、『体調を崩す前に早く寝なさい』って言いたかった、とか?


そんなことを考えながらテーブルの上を片付けて自分の部屋へ入ると、ケージの中でハムが出迎えてくれた。


「ハムぅ、イマイチよく判らない人だよね、課長は」


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