恋愛境界線

  * * *


「──そういえば、うちの《リュミナリスト》のパッケージデザインを手掛けたのも蓮井さんだったんですね」


日課の如く、仕事帰りに寄らせてもらったlotusデザイン事務所の一室で、出されたコーヒーに口をつけ、PC作業をしている蓮井さんに向かって話し掛ける。


蓮井さんとは毎日顔を合わせている内に自然と打ち解けて、最初の頃はここに来る度に、密かに緊張していたけれど、今では妙に居心地良く感じている。


こんな風に、相手先で少しでも寛いでいる姿を若宮課長に見られたら、間違いなく小言が飛んでくるだろうけど。


蓮井さんも蓮井さんで、PCのディスプレイに向かい合ったままの状態で言葉を返してきた。


「そうそう。僕が若宮さんと一緒に仕事させてもらったのも、あれが初めてだったんだ」


「そうだったんですか。それじゃあ、その時も随分苦労されましたよね?」


遠回しに、よくあの性格の持ち主相手に、また一緒に仕事をする気になれましたね、と含みを持たせた言い方をしてみる。


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