恋愛境界線

ただ、この人は、支倉さんが私のことを紹介する前に、私の名前と部署名まで把握していた。


支倉さんが口にしていた私の名前を記憶し、デザイン画を持っていることから所属部署を察したのだろうけど。


一見チャラそうでも、見た目から受けるイメージと違って、頭の回転は速い人なのだと感じた。


「いくら同期の星とはいえ、俺も若宮にこれ以上、差を付けられないように頑張んないとな。じゃーね、芹沢さん」


「芹沢さん、ごめんね。ノリは軽いけど、悪い人じゃないの。ノリは軽いけど」


同じセリフを二度繰り返して口にし、肩を竦めてみせた支倉さんに、思わず笑いが零れる。


「それにしても、パクトケースに付属している透明フィルムも凝ってて可愛いわよね、それ」


「わー、さすが支倉さん!若宮課長、この部分に関しては無反応だったんですよー」


邪魔だけど、鏡の部分が汚れてしまうから、捨てるに捨てられない透明フィルム。


当初、ブランド名だけがプリントされる予定だったそれに、エレガントなレース模様を付け加えてもらった。


外からは見えない部分だし、些細なことではあるけれど、私ならケースを開く度にほんの少しだけテンションが上がると思ったから。


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