恋愛境界線
眼鏡の奥から覗く真っ黒な瞳と正面から視線がぶつかる。
……やばい。
そう思って反射的に身体を背けた瞬間、よろけて封筒の中身が床に散らばった。
「最悪」と独り言を零しながらしゃがみ込み、慌てて床に散らばった書類を拾い集める。
最後の一枚、パクトケースのデザイン画を拾おうとした瞬間、それを他の人物の手が掠め取って行った。
「へぇ、これって遥が担当したの?」
「……渚、会社にいる時には、お互いに話し掛けない約束だよね?」
返して、と声には出さずに、無言で渚の手からデザイン画をすばやく奪い取る。
「いい加減、電話に出ないお前が悪い」
そう言って、不機嫌な声色同様に不機嫌な表情を露わにしているこの男は、私の幼なじみであり、26歳にして秘書課室長という肩書を持つ緒方 渚だ。