恋愛境界線

面倒だからと避けていても、後々余計面倒なことになると知っていたつもりだったのに……。


本気で気分を害している様子の渚を目の前にして、今日まで着信をずっと無視していた自分に舌打ちしたくなる。


「それは……悪かったと思ってるけど、でも渚が電話してくる時って、いつもタイミングが悪くて……」


「その時に出られなくても、後から掛け直してくることくらい、出来たはずだろ?」


そうです、その通りです。


後から掛け直すことも出来たのに掛け直さなかったってことは、話したくないのだと察してくれればいいのに。


「とにかく、私が悪うございました。だから、今日のところは見逃して」


このままここで話し続けるには、渚の存在は目立ち過ぎる。


さっきまでひそひそ話をしていた人たちなんて、口を閉ざしている分、露骨にこっちに視線を向けてきているし。


渚の場合は、若宮課長や深山さんの様に容姿で注目を浴びるわけじゃなく、社内では社長の右腕として知れ渡っているから、そんな人物がこのフロアにいるということが異質なのだ。


< 132 / 621 >

この作品をシェア

pagetop