恋愛境界線
面倒だからと避けていても、後々余計面倒なことになると知っていたつもりだったのに……。
本気で気分を害している様子の渚を目の前にして、今日まで着信をずっと無視していた自分に舌打ちしたくなる。
「それは……悪かったと思ってるけど、でも渚が電話してくる時って、いつもタイミングが悪くて……」
「その時に出られなくても、後から掛け直してくることくらい、出来たはずだろ?」
そうです、その通りです。
後から掛け直すことも出来たのに掛け直さなかったってことは、話したくないのだと察してくれればいいのに。
「とにかく、私が悪うございました。だから、今日のところは見逃して」
このままここで話し続けるには、渚の存在は目立ち過ぎる。
さっきまでひそひそ話をしていた人たちなんて、口を閉ざしている分、露骨にこっちに視線を向けてきているし。
渚の場合は、若宮課長や深山さんの様に容姿で注目を浴びるわけじゃなく、社内では社長の右腕として知れ渡っているから、そんな人物がこのフロアにいるということが異質なのだ。