恋愛境界線

「こっちは、10日間の海外出張から戻ってきたばっかで疲れてんだよ」


どうりで、ここ数日の間はスマホの着信が大人しかったわけだ。


「だから、これ以上手間をかけさせんな」


「でも、話せば長くなるし、また今度にでも、ゆっくり話すよ。ね?」


渚の手を振り解いたその直後、渚の背後からは「……芹沢君?」と耳慣れた声。


「あっ、若宮課長!」


偶然現れた若宮課長が、今はまるで天の助けの様に思える。


私と渚という組み合わせに、内心では疑問を抱いているはずだろうけど、若宮課長はそれを表情には微塵も出さず、「うちの芹沢が何か?」と、普段と変わらない調子で渚に訊ねた。


「いえ、少しこちらで個人的に確認したいことがありましたもので」


渚も渚で、さっきの乱暴な口調から瞬時に仕事モードに切り替わっている。


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