恋愛境界線
「いや、ここはまず乾杯が先でしょ!?」
とは言ったものの、見れば純ちゃんも渚も、既にビールに口をつけている。
なんて自由な人たちなんだろうか……と、乾杯は諦めて、大人しくビールを一口啜る。
「渚の肩を持つわけじゃないけど、遥の住んでる場所に関しては、私もずっと気になってたんだよね。誰の所でお世話になってるのか」
「純にも言えない様な相手なのか?」
『母さんにも言えない様な相手なのか?』と、恋人のことを聞き出そうとする父親みたいなことを言う。
「黙秘権を行使します」
あさりの酒蒸しを箸でつつきながらそう告げ、私は貝の様にピタリと口を閉ざした。
「遥、お前に黙秘権と、戻るマンションはない」
「はっ!?」
渚から発せられた言葉に、熱が通った貝の様に口が無意識にパカッと開いた。