恋愛境界線
その甲斐あってか、背中を壁にもたせてリラックスしていた渚は、早い段階でウトウトし始めた。
「お酒弱いくせに、相変わらずそれを認めないなんて、変なとこで見栄っ張りっていうか……」
渚の手に握られたまま不安定に揺れているグラスをそっと奪い取り、残っていたビールを代わりに飲み干す。
「遥のマンションの件もあったし、出張続きってこともあって、さすがに疲れてたんじゃない?」
いつもより潰れるのが早いもの、と純ちゃんが隣の部屋からタオルケットを持ってきた。
「……ねぇ、遥。言いたくないなら仕方ないけど、そんなに私たちには言いたくない様な所に住んでるの?」
「言いたくないっていうか……ごめん、今はまだ言えない、かな。でも、純ちゃんが心配する様な所じゃないの、全然。本当に」
「……そう。遥がそう言うなら私は信じる。でも、渚は難しいかもね」
信用することと、心配することは別だからと言って、純ちゃんが眠っている渚に視線を落とす。
つられる様に私も視線を向けてよく見てみると、渚の閉じられた瞼の下には、疲労の跡なのか、うっすらと隈が出来ている。
それを見てしまったら、誰も心配してなんて頼んでないんだから、渚なんて勝手に心配してればいい!と思う気持ちが、不覚にも萎みそうになった。