恋愛境界線
コンシェルジュに話せば、もしかしたら開けてくれるかもしれない……けど、彼女でも家族でもないのに、と躊躇ってしまう。
成す術もなく、若宮課長が帰ってくるまで待つしかないと、柱を背にしゃがみ込んだ。
お酒が入っている所為か、今のところ寒さは感じないものの、次第に身体が空腹を訴え始める。
渚が起きる前にと、早々に帰ってきたけれど、こんなことならもっとゆっくりしてくれば良かった。
しゃがみ込んだ膝の上に両腕を重ね、そこに頭を乗せて項垂れていると
暫くして後、「……芹沢君?」と、私が待っていた人物の声が頭上から降り注いだ。
「……連絡の一つくらい入れようとは思わなかったのか、君は。ですよ」
私を不審げに見下ろしている若宮課長に向かって、いつぞやの課長のセリフを口真似する。
「すまない。君が遅くなると言っていたから、てっきりまだ帰ってきていないものだと……」
「どうして、スマホにも出てくれなかったんですか!」
「あぁ、途中でバッテリーが切れてしまって。本当にすまなかったね」
そう言いながら、若宮課長はオートロックシステムのパネルに鍵を差し込んで、セキュリティを解除した。