恋愛境界線
どうしようか少しだけ迷って、課長の言葉に従って、一旦はマンションへ帰ることに。
軽くメイクを直すので、その後に近場のお店に食べに行きませんか?と提案した。
帰ってすぐに鏡を覗き込んだら、目と鼻が微かに赤くなっている程度だった。
「これなら、言うほど酷くはないよね……?」
僅かに熱を持っている目元に触れると、少し前に若宮課長に触れられた感触を思い出してしまい、泣いた顔を見られたことよりも、課長に触れられたという出来事に、鏡の中で赤面している自分の顔の熱が更に上昇した。
──顔に触れられたことなら、今までにもあったのに。
自分でもよく判らない感情に、勢い良く水で顔を洗って雑念を振り払う。
私がメイクを直し終えた時には、若宮課長はシャツの上にジャケット、下はデニムというラフな格好に着替えていた。
「そう言えば、近くに居酒屋っぽいお店がありましたよね?そこに行ってみたいんですけど、良いですか?」
密かに気になっていたお店を挙げると、若宮課長はそこでも構わないと答えた。