恋愛境界線
部屋を出てドアが閉まったタイミングで、まるで見計らったかの様に、私のスマホが振動した。
見れば相手は渚で、しかもメールじゃなくて電話の着信を示している。
今日こそはちゃんと後で掛け直すから、ごめん!と心の中で謝り、そのまま鞄の中に戻す。
「それ、ずっと鳴ってるみたいだけど、良いの?」
「はい。後で掛け直すので大丈夫です」
何を食べようか、お酒は何を飲もうか、そんなことを考えながらエレベーターで一階まで降りて行く。
「課長はあのお店、行ったことがあるんですか?」
「あぁ、一度だけ深山くんと一緒に。創作料理がなかなか美味しかったよ」
……出た、“深山くん”
「へぇー、深山さんと……。それはそれは」
「何?」と、課長が眉を顰めたその時、エレベーターが一階のエントランスに到着した。