恋愛境界線
だけど、その辺の事情を知らない渚は、課長のセリフを信じられないらしく、「そう言われて、簡単に信用出来ると思いますか?」だのと、尚も難癖をつけている。
「想像してみてよ。私と渚が一つ屋根の下で寝たとして、何かあると思う?そう考えれば、若宮課長とのことだって、簡単に信用出来るでしょ」
「尚更信用出来ないな。そんなの、実際にそうなってみなければ判らないだろ」
「何が?どういう意味?」
何が判らないというのか、渚のセリフに、私の方が判らなくなってくる。
「とにかく、芹沢君の部屋の改修工事が終わるまでのことなので、あと少しの間だけだよ、緒方君」
仕事ではなくプライベートだからなのか、若宮課長の渚に対する口調が少し砕けたものになる。
「そうですか。それなら遥が若宮さんにご厄介になるのは、今日限りということですね」
若宮課長に向かって仕事モードの笑みを浮かべた渚が、続けて私に「だよな?」と問い掛けてきた。
「芹沢君?もしかして、ちょうど今日、改修工事が終わったのか?」
「いえ、改修工事が終わるのを待つ意味がない、ということです――遥の部屋は、既に解約して引き払ってあるので」