恋愛境界線
渚の言葉に、私を見る若宮課長の目が『どういうことだ?』と言いたげに細められた。
若宮課長からしてみれば、一日でも早く私に出て行って欲しいと思っているだろうし、ここに住まわせてもらう条件の一つが、『改修工事が終わったら速やかに出て行く』だったわけで。
なのに、私が黙って居座っていたと知った以上、文句の一つも言いたくて仕方がないはず。
「遥、丁度足もあることだし、ここで待ってるから今すぐ荷物を纏めてこいよ」
渚が、クイッと自分の車を指す。
若宮課長に知られてしまったからには、もうここには置いてくれないだろうけど。
それでも、だからといって渚の言う通り、今すぐ荷物を纏める気にはなれない。
「渚、ちょっと待ってよ。私はまだ次に住む所を決めてないんだから」
「だから、うちに来ればいいだろ。うちだって部屋が余ってんだし」
渚は、「それとも、そのままそっちに居たい理由でもあるわけ?」と、なぜか苛立った様に訊ねてきた。