恋愛境界線
「君に見られたあの夜も、ちょうど姉に呼び出された帰りで、あの日はいざ店に着いたら着いたで、やっぱり今日は必要なくなったから帰っていいと言われて、苛立ちを抑えながら帰ってきたタイミングでのアレだ」
若宮課長は、「姉の身勝手で振り回された挙句の果てに、今度は君に振り回される羽目になった」と、私を冷やかに見つめてきた。
あの日のことに対して、今では若干の申し訳なさを感じてしまう。
「私だって本当はあの日、借りた服を返しにきただけだったんです……」
「火事の被害に遭ったあの日に限って、わざわざ服を返しにきただけ、ね」
どうだか、と言いたげに、私の言葉を疑ってかかる課長にちょっとだけカチンときて、胸に抱いていた若干の申し訳なさは、一瞬にして吹き飛んでしまった。
「こんなことなら、君に軽率に服なんて貸さなければ良かったよ」
てっきり元カノの物だと思っていたあの服が、実は若宮課長自身が女装用に使っていた物だと知る。