恋愛境界線
着替えを済ませてドアを開けると、リビング・ダイニングでは若宮課長が新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。
名前が《若宮馨》と雅なだけあって、コーヒーを口に運ぶ仕草一つにも優雅さが漂って見える。
新聞も普通の新聞なのに、課長が読んでいるとオシャレアイテムの様に見えるから不思議だ。
この人があっち系だとしたら、残念に思う女性がどれだけいることだろう。
うっかりそんな余計な心配をしてしまいそうになるけれど、課長があっち系というのは、まぁ私の誤解だったに違いない。
だって――
「若宮課長!女性に興味ないとか言ってましたけど、これ!」
ワンピースの裾をつまんで、「これ、元カノさんの服だって言いましたよね?」と確認する。
「それなら、女性に興味ないとか嘘じゃないですか!どうして嘘を吐いたんですか、もう」
恋愛対象外として私を安心させる為についた嘘かもしれないけれど、それにしても余りに課長らしくない嘘だ。
一瞬でも驚いてしまった私を見て、内心では笑っていたんだろうなって思ったら悔しくなった。