恋愛境界線
「深山君と飲みに行くのは、美容部員と親しい彼から、その辺の話を聞かせてもらえるからだ」
美容部員とは、デパート等の化粧品売り場でお客様にメイクをしたり、お客様に合った化粧品を一緒に選んであげたりする販売員のことで、彼女たちはブランドメーカーの顔でもあり、購買意欲を掻き立たせる――いわば、販売のプロだ。
そんな彼女たちを通して、売り場の生の声をいち早く聞けるというメリットが、深山さんと飲みに行く理由。
他の人から聞けば、こじつけの様にも聞こえる理由だけど、仕事の鬼である若宮課長の口から出ると、納得も納得。
「……でも、本当にそれだけが理由なんですくゎぁ?」
「その語尾はイラッとくるな。本当にそれが理由だ。それに、深山君が相手だと下手に気を遣わずに飲めるしね」
深山さんも深山さんで、居酒屋を開拓するのが趣味らしいから、お互いに利害が一致しているのだとか。
「大体、君たち女性は、女同士で普通に旅行するくせに、これが男同士だと確実にホモ扱いだ!」
最早飲みに行くだけでもそういう目で見られるなんて、理不尽極まりない!と、若宮課長は怒鳴る様に嘆いた。