恋愛境界線
服を綺麗に畳み、来る時に服やコスメを入れてきたキャリーバッグの中へと移す。
普段だったら、絶対にここまで綺麗には畳まないのに。さっきから、妙に時間を引き延ばそうとしている自分が不思議だ。
だって、課長なんてすぐ嫌味を言うし、小言は多いし、会話だって特別弾むわけでもなくて。
ここにいるよりも、純ちゃんの所か一人でいる方がよっぽど気楽に過ごせるはずなのに。
なのに、寂しい――なんて思うのはおかしい。
一時的に感傷的になっているだけだと、単なる気のせいだと、そんな風に誤魔化せないほど、心が寂しいと訴えている。
情って、こんなに簡単に移っちゃうものだったんだ、と思いながら手だけを必死に動かす。
スマホの充電器を仕舞い込んだのを最後に、10分足らずで私の荷造りは終了した。
すると、ケージの中にいたハムが、キュッともチュウともつかない声で短く鳴いた。
「何?ハムも寂しいの?」
「すまない――ちょっと、いいかな」
「いい今、ハムが喋った!てか、若宮課長が乗り移った!?」