恋愛境界線
「何を言ってるんだ君は。そんなわけがあるか。こっちだ、こっち」
こっちと言われた方を振り向けば、開けっ放しにしていたドアの横には若宮課長が立っている。そして、私を見るその目は、とてつもなく白い。
「余りにタイミングが良すぎたので、つい、勘違いしちゃいました」
恥ずかしくて、あははと笑って見せても、課長は釣られて笑ってくれるということもなく。
「どんなにタイミングが良すぎても、そんな勘違いはしないだろ。普通は」
そんなクールな対応に、思わずふふっと笑うと、すかさず「何が可笑しいんだ」とツッコミが入る。
「いえ。若宮課長の嫌味な口調を耳にするのも、プライベートではこれが最後かと思うと、なんて言うかこう……」
寂しさの中にも嬉しい……とはちょっと違うけど、くすぐったい様な、そんな気分になる。
「ところで君は、結局、これからどこへ行くことに決めたんだ?」