恋愛境界線
「嫌ってはいないけど、好きでもない人間をここまで面倒見るなんて、課長はよっぽどのお人好しなんですね」
「……何が言いたい。嫌味か何かか?」
「いえ、別に。実は自分で思ってるより、課長は私のことが好きなんじゃないのかなぁ、と思っただけです」
勿論、恋愛感情の『好き』ではなく。私がハムや生ハムを好きなのと同じ意味合いで。
だけど、若宮課長は恋愛感情の意味合いで受け取ったらしい。
「社内恋愛はしない主義だから、同じ職場の人間にそういう感情を抱くことはない」
若宮課長が社内恋愛はしない主義だなんて初耳だ。社内、社外問わず、恋愛はしない主義、ならともかく。
「どうして、社内恋愛はしない主義なんですか?」
「ああいうのは当人たちも気を遣うが、バレると周囲の人間も気を遣うものだろう」
「言われてみれば、そうかも。それに、別れた時に気まずそうですもんね。うん。私も社内恋愛は出来ればパスしたいです」