恋愛境界線
もしかして、もしかすると、やっぱり若宮課長はあっち系なのだろうか。
ごくり、と喉が鳴る。
「あのっ、若宮課長はホ――じゃなくて、ゲ」
「まさか、コーヒー?」
私が口を開いたのと同時に課長も口を開き、お互いに全く違う発言が重なった。
「え、あの……?コーヒーって?」
「君が今、唾を飲み込んで私の顔をじっと見ていたから、てっきりコーヒーが欲しいという無言の催促かと」
「いえ、違います。そりゃあ……ちょっと、喉を潤したい心境ではあるんですけど」
普通ならば、自分一人だけコーヒーを飲むのは気が引けて、私にもコーヒーを差し出すくらいの気遣いはあっても良さそうなものなのに。まるで私の存在は無視ですか、と思わないでもない。
「あ、そう。違うなら別にいいけど」
若宮課長は、私の前半の言葉だけを受け取って、どうやら後半の言葉はあっさりと聞き流してしまったらしい。酷い。