恋愛境界線
「すみません。私は、余り感情が表に出ないタイプなもので」
「と言う割には、思いっきり、顔に不服と書かれているが?」
それは、何色の何ペンで書かれているんでしょうか?油性ですか?水性ですか?クレヨンとかアクリル絵の具ですか?
ここがマンションだったら、絶対にそう言い返してやるのに。
「顔に不服と書かれてるというのは、何かの冗談ですか?そうじゃなければ、課長が何を言ってるのか、私にはいまいち判らないのですが……?」
これ以上の不満は顔に出さない様にして、とりあえず女の子らしさ全開で、小首を傾げて惚けてみる。
「もういい。言葉通り、今後は気を付ける様に。あと、ちゃんとした日本語を使いなさい」
「若宮課長が何を仰っているのか、私にはいまいち理解し兼ねるのですが――で、よろしいでしょうか?」
丁寧に言い直して、これで文句はないだろうと得意げに課長を見上げる。
「肝心の所がそのままじゃないか。“いまいち”じゃなくて、“今一つ”だ。もういいから、早く仕事に戻りなさい」
他の人からは見えない様に若宮課長に向かって軽く口を尖らせた後、「はい」と返事をして退室した。