恋愛境界線
「……そんな話がしたくて残っていたわけじゃないだろう?」
一瞬にして、口調と共に空気が変わったのが判った。他人行儀だった態度が柔らかく、そして親密な空気に。
「そう、その通りよ。本当は謝りたいことがあって、それで皆が退室するのを待っていたの」
私の位置からは、二人の表情までは見えない。
だけど、会話や声色だけでも十分に二人の親密な雰囲気は伝わってきて、今は何気ないフリを装って、この二人の間に割って入って行くことはとても出来そうもない。
かと言って、これ以上このまま立ち聞きするのもいけないと、静かに立ち去ろうとした瞬間、耳に飛び込んできたセリフに、思わずドアの向こう側に耳をそばだてた。
「……デザイン流出の件、もしかしたら、私のせいかもしれないと思って」
どんなに必死に目を凝らしても、この位置からは若宮課長の後姿しか見えないけれど、その背中が微かに身じろいだ。
「君のせいかもって、それは一体どういうことなんだ――泉」