恋愛境界線

話し声から、課長と一緒にいる女性が支倉さんだということには気付いていたけれど、動揺した課長が支倉さんの下の名前で呼んだことに、課長以上に動揺してしまう。


何より、今回の件は支倉さんの所為だと聞こえたけれど、その原因に思い当たる節がなくて。


だからこそ、早く先を聞きたくて心拍数が上がる。


「──以前あんなことが起きたから、もしかしたら今回も私のせいなんじゃないかなって、そう思ったの」


「それは、論理的じゃないね。大体、以前の件にしても、君のせいじゃないだろう?」


「私にも落ち度はあったわ」


「それにしても、だよ。誰のせいかと言えば、それは間違いなく情報を流したやつのせいだ」


もう一度、「決して君のせいじゃない」と告げた若宮課長の言葉に、支倉さんは声を弱めた。


「でも……、だって、こういうことが起きるのって、私が若宮くんと仕事を組んだ時ばかりじゃない」


まるで、今にも泣き出しそうな、か細い声が室内の空気を震わせる。


「嫌なの。私が若宮くんの足を引っ張るのは、もう嫌……」


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