恋愛境界線
二人の間に漂ういつもとは違う濃密な空気に、今にも息が詰まりそうになる。
そもそも、支倉さんは、若宮課長と同期だし。
以前、支倉さんは奥田さんを同期だと紹介してくれた。その奥田さんは、若宮課長を同期の星と言っていたから、支倉さんと若宮課長も同期ということで。
しかも、今は二人しかいなくて。その上、支倉さんは少し取り乱しているから。
だから、口調が砕けたものに変わったとしても、別におかしくない。
呼び方だって、“若宮さん”から、“若宮くん”になったことに、きっと深い意味なんてない。
ドクドク、と激しく乱れる一方の心臓を抑え込む様に、ぎゅっと胸元を握りしめる。
若宮課長が一歩近寄ったのか、カツッと踵の音が小さく響いた。
「大丈夫だから落ち着いて。……泉は、今回の件までそんな風に気にしなくていいから」
イズミ――さっきもそう呼んでいたけれど、支倉さんの名前がイズミだということを、今更ながらに知る。
だけど、同期だしと、それをまるで呪文の様に再び心の中で繰り返す。
渚だって私のことを呼び捨てにするし、同期なら下の名前を呼び捨てにしたとしても、何らおかしくはない、はず。
でも、若宮課長に限っては、よっぽど親しくなければ――それこそ、特別な間柄じゃなければ、こんな風に、女性の名前を軽々しく呼び捨てになんてしない気がした。