恋愛境界線
若宮課長に対して、一瞬儚げな笑みを浮かべた支倉さんはスイッチを切り替えた様に、瞬時に明るい表情を私に向けてきた。
「それじゃあ、芹沢さん、今度また一緒にランチにでも行きましょうね」
それだけ告げると、あとはもう本当に何事もなかったかの様に、颯爽と会議室から出て行った。
「君は、支倉さんと仲が良かったのか?」
「そ、そうです、けど……何か問題でも?」
若宮課長が仕事中に、仕事とは関係のないことを訊ねてくるなんて珍しい。珍しいを通り越して、とてつもなく怪しい。
一度二人の関係に気付いてしまえば、些細なことでさえも、すぐにそれと結びつけてしまう。
「いや、性格が似ていないから、そんなに仲が良いなんて意外だと思っただけだ」
へぇー、一緒に暮らしている私はともかくとして、支倉さんの性格までよくご存じですね。
そんな返しをしてみたくなったけれど、あからさま過ぎる気がして黙っておいた。