恋愛境界線

会話が迷子になっただけじゃなく、課長と話していると私自身が迷子になった気分になってくる。


途方に暮れるというか、泣きたくなってくるというか……。


「ところで、芹沢君。約束があるって言ってた割に、君は悠長にここに居て大丈夫なのか?」


課長の一言で、すっかり約束を忘れていたことに気付き、慌てて時間を確認する。


ものすごく気になる事の真相は、結局謎のままだけど、このままだと約束の時間に遅れてしまうことは確実で、気持ちを切り替えて唯一無事だったらしきジャケットをワンピースの上に羽織った。


「若宮課長、それじゃあお借りした服は、後日きちんと洗ってお返ししますので!昨夜は色々とすみませんでした!」


バッグを手に、他に忘れ物はないかと頭の中で確認しながら、課長に向かって一礼する。


別れ際くらいは、「気にしないでいいよ」とか「こちらも色々とすまなかったね」とか、せめて「気を付けて帰りなさい」くらいの優しい言葉を掛けてくれるかと思った私が甘かった。


「──芹沢君、今後は二度とこの様なことがない様に」


仕事でミスを犯した時と何ら変わりのない冷淡な対応に、やっぱりこの人はどこまでも鬼上司だと思った。




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