恋愛境界線
私がデザートに頼んだココナッツのアイスクリームを食べ終えたのを見計らって、純ちゃんが伝票に手を伸ばす。
明日も仕事があるからそろそろ帰りたい、と思ってはいたけれど、自分から誘った手前、「そろそろ帰ろっか」などとは切り出せない。
そんな私の性格を見越して、いつも絶妙のタイミングで切り出してくれる純ちゃんは、他人の心の機微や空気を読むのがとても上手い。
それじゃあ――と立ち上がり掛けた時、テーブルの端に置きっぱなしにしていた私のスマホが音を立てた。
バイブにしていたせいで、ブブブブ……とテーブルの上で大きく振動音が響き、二人の視線がそれに集中する。
《若宮課長》
電話の着信ではなく、メールを受信したらしいそれは、慌てて手に取った直後、すぐに静かになった。
ディスプレイ画面に表示されたその名前を、多分、二人はしっかりと視界に捉えたはず。
後で確認しようと、バッグの中に仕舞い込もうとした私に、渚がこの場で確認する様に促してきた。
「急用かもしれないし、見れば?」と。