恋愛境界線
お店を出てすぐに、食事代の1/4にあたる金額を、先に全額まとめて支払ってくれていた渚へと差し出す。
渚が「はいはい」と苦笑しながらも受け取ってくれたことに満足し、三人で駅へと向かって歩き出そうとしたところで、バッグの中のスマホが再び振動した。
私よりも2、3歩先を行く二人に気付かれない様に、こっそりとメールを確認する。
【気を付けて帰ってきなさい。】
たったそれだけの、若宮課長からのリプライ。
あんな返事に、こうしてわざわざ返事重ねてくれるとは思わなくて、その短い文面に繰り返し目を通す。
まるで、私の保護者でもあるかの様な、そんな一文だけど。
けれど、その文章に口元がむずむずしてきて、頬が緩むのを止められない。
なぜか、最近はいつもそう――誰かと会った帰り際は、急に若宮課長の顔が浮かんでくる。
早くマンションに帰りたくなって、返信はせず、代わりに歩調をわずかに速めた。