恋愛境界線
「へぇ。じゃあ、その言い方から察すると、緒方君が奢るとか言い出したわけだ?」
トータルの半分の額は渚が支払ってくれたわけだし、当初は課長の指摘通り、全部奢ってくれようとしてたことに違いはないから、黙って曖昧な感じに頷く。
「私の場合は、君より歳も収入も上だから、立場上当たり前にそう考えてしまうけど、緒方君の場合は多分――」
なぜかそこで急に口を閉ざした課長に、「渚の場合は、何ですか?」と訊ねる。
若宮課長は、人差し指を下唇に当てたまま逡巡し、「まぁ、つまり、緒方君の場合は……男だから、だろう」と答えた。
だから、男の人はどうして奢りたがるのかって話だったのに、これじゃあ何の答えにもなってない。
若宮課長の答えに釈然としないものを感じながらも、その話はそこで打ち切った。
本当に訊きたいのはそんなことじゃなくて、今日の支倉さんとのことで。
支倉さんって、若宮課長の婚約者だったんですか?
そう訊ねてみたかったけれど、その答えを聞きたい様な、聞きたくない様な。
そんな判然としない自分の感情に、結局訊ねることは出来なかった――。