恋愛境界線

「はい、実は……」と答えると、「なら、いっか」と浅見先輩は独り言を洩らした。


「知ってるも何も、私に限らず、二人が破局した後から入社した人たちを除いて、社内の皆が知ってることよ」


「その割には、誰もそのことを口にしませんよね?」


だから、私は渚に聞くまで、若宮課長の元カノが同じ会社の人間だとは思いもしなかった。


私の問い掛けに、浅見先輩は「そりゃあ、そうじゃない?」と苦笑する。


「だって、訊かれたなら言えるけど、そうじゃなきゃ若宮課長のそういう噂話を、さすがに自分からは言いふらせないわよ」


そういうものなのかな?とも思うけれど、これが他の人だったのならまだしも、噂話の中心にいるのがあの二人ともなれば、先輩の様に(はばか)る気持ちが判らないでもない。


「あの二人って、その……婚約までしてたって、本当ですか?」


誰に訊いたの?と気にしながらも、浅見先輩は「本当よ」と肯定した。


「入社当時から二人とも人目を引いてたし、ほら、あの容姿に加え、仕事面でも二人揃ってその年の同期の中では突出していたから」


そんな目立つ二人が付き合っていて、噂にならない方がおかしい。



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