恋愛境界線
──その日の夕方、若宮課長からは珍しく『外で夕食を済ませて帰る』とメールがあった。
「私は残業だっていうのに、向こうは今頃、深山さんあたりと楽しく飲んでるんだろうなぁ……」
終業時間を迎えて1、2時間くらいまでなら、残っている人はまだまだ多いけれど、それを過ぎると、さすがに人もまばらになり、現在では閑散としている。
私のデスク周りの人たちも、三十分ほど前に既に皆帰ってしまっていて静かだ。
あと一息という所までまとめ上げたデータを上書き保存し、すっかり温くなってしまったコーヒーを一口啜った。
早く帰ってご飯が食べたい。それから、冷えたビールも。
いつもなら真っ先にそう思うのに、頭に浮かんだのはビールでも夕飯でもなくて、若宮課長の顔だった。
どうして、若宮課長が浮かんできたんだろう?
頭を左右に軽く振って気を取り直し、PCのディスプレイに集中する。
結局、社を出る頃には、時計の針が9時を回っていた。