恋愛境界線
ネオンサインを掲げ、夜でも十分に明るく、そして日中とはまた違った賑わいを見せる街中を通り抜ける。
いつも通り電車で移動し、マンションから最寄りの駅で降りた。
周辺に灯りは溢れているものの、それでも、マンションに近付くに連れて喧騒は遠のき、空気はちゃんと夜を感じさせる様な、ひっそりとした重みのある、どこか落ち着いた雰囲気に変わって行く。
建物の外観だけでなく、そう感じさせられるこの立地も素敵だと思いながら歩いていると、すぐ手前にあるこじんまりとした、まるで隠れ家の様な居酒屋から、ちょうどお客らしき人物が二人出てきた。
「誘ったのは私なんだから、私が出すって言ったのに」
「場所を指定したのは僕だし。ここから家までは遠いだろう?だから、そのお詫びだと思ってくれればいいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。若宮くん、ご馳走様でした」
支倉さんと若宮課長が一緒にいる姿を見掛けてしまった驚きに、思わずその場で立ち止まる。
そのせいで、タイミング悪く顔をこちらへ向けた二人と、正面から視線がぶつかってしまった。