恋愛境界線
それにしても――と思いながらバターを塗った食パンの端を齧りつつ、若宮課長の顔を盗み見る。
『婚約者だったことくらい、私だって知ってるんですからね!』
肝心の、私が課長に向かって投げつけた言葉に関しては、全くのスルー。
そりゃあ、そうだ。触れたら、必然的に支倉さんとのことを私に話さなきゃいけなくなるわけだし。
「……何だ?僕に、何か言いたいことでも?」
手元のスクランブルエッグに視線を落としたまま、若宮課長が訊ねてくる。
もしかして、この人は額にも目があるのだろうか?
「いえ、別に……」
パンを皿に置いて、マグカップを口元に運んだタイミングで若宮課長が顔を上げた。
「……昨夜君が言ってた、泉のことか?」