恋愛境界線

「渚なんて一人称が俺だから、その響きってちょっと新鮮です」と笑う。


「緒方君だって、TPOや相手によって一人称くらい変わるだろう?」


「そうですね。でも、渚が『僕』と言うのは想像出来ても、課長が『俺』と言うのは想像がつかないです!」


だって、女顔だし。


その顔で「俺は」とか「俺が」とか言われても、似合わなさ過ぎて無理をしてる感じしかない。


「ところで、君は着替えもあるだろうし、時間は大丈夫なのか?」


「あっ、そうだ!ご馳走様でした!先に着替えてくるので、ここはこのままにしてて下さい」


昨日のお詫びに、今朝は課長の分も私が片付けますから!と言い残して部屋へと戻る。


一人になった途端、無理にはしゃいだ所為で、余計に虚しい気持ちに襲われた。


『そもそも君には何の関係もないことじゃないか』


関係なら、もう十分にある――だって、私は若宮課長のことが好きなのだから。




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