恋愛境界線
「……その、言いたくなければスルーしてもらって構わないんですけど……えっと、どうして別れたんですか?」
最近、頻繁に支倉さんと食事をしている若宮課長の態度からも、お互い未だに思い合っている様に見える。
支倉さんは、私の質問に「……好きだったから、かな」と答えた。
「好きだったから……?へっ? あの……好きなのに、別れたんですか?」
綺麗に巻かれた出汁巻き玉子を、箸で半分に切り分けながら支倉さんは頷いた。
「私と若宮くんって、同期じゃない?」
「ええ」と相槌を打つと、支倉さんはそこから若宮課長との過去をゆっくりと語り始めた。
二人は同じ大学で、当時支倉さんは若宮課長の存在は知っていたけれど、在籍中に言葉を交わしたことはなく、偶然同じ会社に入社したのをキッカケに、そこで初めて会話を交わしたのが出会いだった――と。
「若宮くんと仕事のことで意見を交わすのは、他の誰と交わすよりも刺激的で楽しかったの」
そこから公私共に良きパートナーになるまでに時間は掛からなかったことは、聞くまでもなく想像するに容易い。