恋愛境界線
以前から、プロジェクトが成功したら結婚しようという話はしていたけれど、そこに改まったプロポーズの言葉はなく、お互いに「そうしないか?」「そうだね」といった感じの気軽さで心に決めていたらしい。
勿論、それでも二人の気持ち的には本気で、真面目に考え、結婚までのことを色々と進めていたのだろうけれど。
「初めてのミスらしいミスに加え、それがよりにもよって、あんなに大きなプロジェクトなんだもの……。自分で思っていた以上にすごくショックで、もう、今までの人生で一番落ち込んだし、結構引き摺ってしまったのよね」
その気持ちなら、私もすごくよく解る。
気持ちを切り替えなくちゃって、頭では判っているのに、そこから抜け出せない気持ち。
「それでね、そんな時に若宮くんが指輪をくれたの」
『本当はこのプロジェクトが終わって、落ち着いてから渡そうと思ってたんだけど』と言いながら差し出された指輪。
それに、『きちんと言葉にしたことはなかったけれど、』と、改まったプロポーズの言葉を添えて。
「それまでは、若宮くんとの結婚は真剣に考えていたの、本当に。だけど……その時、私はそれを受け取れなかった」